※このページの感想は、「正しい勇者の作り方」を読んだ筆者個人の感想であり、作品の絶対的な良し悪しを決定するものではありません
目次
◆ あらすじ
100人の勇者候補が一堂に会し、たったひとりの〝新世代の勇者〟を決めるべく、時に殺し合い時に互恵関係を結びながら競ってゆくファンタジー×デスゲームもの。
勇者たるにふさわしい魔力適性を持つ者には、それを示す紋章が現れるが、それが現れるのは十中八九女性――特に少女――である。
そして勇者選抜のためのゲーム、通称「勇者ゲーム」への参加資格は、その紋章を持つもののみに与えられる。
それゆえ、集まった勇者候補者は少女ばかり。
そんな中、ただひとり主人公だけが、男だった。
注意読書感想文の性質上、以降の感想の随所にネタバレを含みます。
◆ 短め感想
第一章中盤から一気に引き込まれ、常に興味を離さないような構成が秀逸です。
現在広く浸透している、あらゆるものを平等に愛し、一人の犠牲さえ許さないような〝理想の勇者像〟へのアンチテーゼとも言える〝正しい勇者〟の考え方は斬新でしたが説得力があって、とても面白かったです。
主人公がクズである理由にも納得感があって、むしろ応援したくなってしまいました。作品のテーマからして重く、切なくなりがちな雰囲気を上手く中和してくれるヒロインがとてもかわいかったのもポイントです。
ラストの展開は賛否が別れそうですが、各キャラが各々の芯を貫いた結果として生じたものなので、個人的には好みです。
総じて面白かった!
◆ 詳しめ感想
導入、特に一章の終わりが衝撃的で、読み進める手が止まらなくなりました。文章の書き方からして、初めこそなろうライズされた作品なのか――と落胆さえ覚えていましたが、第一章の終盤では、文章の巧拙などどうでもよく感じるくらいに手に汗握る展開が続き、一気に引き込まれました。それから続く各章でも、中だるみせず常に興味を引かれるような事件や出来事が用意されていて、飽きることなく最後まで読み進めることができます。
主人公のクズさが上手く活きていました。勇者=クズはもはや王道になっている気がするのですが、この作品はそこにもう一捻り加えて、新しいカタチに仕上がっていたように思います。この作品は主人公がクズを貫いていることに納得できる理由が付加されていて、コメディだけに留まらない、主人公の内面へ深く踏み込んでいくための切っ掛けとして、そのクズさが存分に活かされているように感じられました。なぜ彼がクズであり続けるのか、物語が進むにつれて明かされるその理由に、胸が締め付けられるようでした。
キャラクターの軸が貫かれていました。特にメインキャラクターそれぞれの正義は必ずしも同じ方向を向いているわけではなく、むしろ真逆ですらあったのですが、彼らのどの主張にも首を縦に振りたくなってしまうような説得力をもって語られるキャラクターの価値観や情熱に、心打たれました。
ヒロインがかわいかったです。第一印象は完璧なようでいて、読み進めるにしたがって次第に実は少し抜けていることが明らかになっていく過程が読んでいて楽しく、主人公との掛け合いも面白かったです。作品の雰囲気を重くしすぎないための緩衝材的な役割を十全に果たせていて、無慈悲な現実に胸を痛めた読者の心の創傷を癒してくれるようなそのキャラクター性は唯一無二で魅力的です。
ミスリードが巧みでした。こればっかりは書きたくても書けないのが残念です……。焼いてタレをかけたら美味しそうなくらいの鳥肌が立ったとだけ。