感想というより、感じたことを書き並べただけの散文です。
※このページの感想は、「メイクアガール episode 0」を読んだ筆者個人の感想であり、作品の絶対的な良し悪しを決定するものではありません。
目次
◆ あらすじ
ロボット工学において優秀と認められた高校生たちが一堂に会し、グループを組んでコンペティションの優勝を目指す青春もの。
とある大学が、ロボット工学分野で次世代を切り開くほどの天才的な実力を持ち合わせた高校生を選抜するためにコンペティションを開催した。その名も〈次世代高校生プログラム〉。
予備選考を突破した高校生たちは三ヶ月のあいだに三人一組で次世代のロボットを制作し、最後にはデモンストレーションを行う。競争の目玉となる特典は、一位のグループにのみ与えられることになっていた。
万年二位にしかなれないことにコンプレックスを抱いていた主人公・初は、予備選考でも常のごとく二位。今回こそは一位を取るのだと意気込む彼は、初日に道中で出会った最下位の少女・ソナタと、初日から遅刻したうえに、ジェットパックによる豪快な登場で会場を大破させた一位の天才少女・稲葉とチームを組むことになり、さらにどういうわけか、ふたりと共同生活を送ることになる。
ご注意なさい読書感想文の性質上、以降の感想の随所にネタバレを含みます。
◆ 短め感想
はじめこそ、初がどうにも打算的な人間であるように思えて彼のことを好きになれなかったのですが、読み進めていくにしたがって合理的なだけではない彼の人間的な側面が見えてきて、最後には彼と感情を共有していたような気がします。ケーブルを引きちぎるシーンとかもう、「よくやった!」と。
また、本作では「メイクアガール」の前日譚として、水溜稲葉についてより深く掘り下げがなされていました。個人的にはもう少し深く掘り下げてほしかったですが、物語が〝人間らしい〟初の視点で進んでいくことによって、〝人間らしくない〟稲葉の異質感が際立っていたように思います。
それと、とにかくソナタが可愛かったです。
◆ 詳しめ感想
ソナタが植え込みに刺さっていたり(かわいい)、稲葉がジェットパックでガラスを割ったり、さらにはそんなふたりと同居することになったりと、導入の雰囲気からしてキャッキャウフフな青春ものを期待していたのですが、次第に雲行きは怪しくなり……。最後には感情が迷子になりました。この物語は、誰に感情移入して読むのが正解なのでしょう。
合理性を求めているようでありながら実は最も人間らしい立ち回りをする初と、自らの目的を達成するための合理的な手段として人間らしい立ち居振る舞いを模倣する稲葉の対比が読んでいて印象的でした。最下位のソナタは自分が一位を目指すうえで足手まといになってしまうと、彼女をグループに入れることを逡巡しながらも、最終的に彼女をうざ絡みから救ったり、ソナタから向けられる好意に気づきながらもそれに向き合うことから逃げ、返答を先送りしたりと、初は実に人間的だと僕は思います。その場の感情や雰囲気に多大なる影響を受けて、必ずしも合理的な判断を行えない初は、そんな判断の失敗に向き合いながら、次第に成長していきました。対する稲葉は、周囲の人間が恐怖さえ覚えるほど、徹底して合理的です。自らの複製を作るためならば、人間らしさを模倣して恋する乙女だって演じてしまいます。対象を喜ばせるためならハッキングだってしますし、対象の亡母を〝生き返らせる〟ことだってします。彼女にとってそれは、人を喜ばせるための、人として当たり前の行動なのです。もちろん彼女に悪気はないので、そのせいで発生した衝突にも、胸が締め付けられる思いでした。
とにかくソナタがかわいかったです。モンスターのぬいぐるみをたくさん作るのも、それを持ち歩いているのも、映画について目を輝かせながら語るのも。将来はきっとすごいエイリアンになれることと思います。なぜ映画が好きになったのかの理由付けもきちんとされていて、どうか見たい映画を見たいときに見たい人と見られるくらい幸せになってほしいと思いながら読み進めていました。
ラストはあえて核心をぼかしたような書き方をされていましたが、続く稲葉の独白を読めば、初がどちらを選んだのか、おおよそ見当がつきます。独白の内容からして、初は〝稲葉の真意に気づいたから〟もう一方の彼女を選んだのでしょう。それに気づくことがなければどちらを選んでいたのか――知りたい気もしますが、やはり知りたくないような気もします。稲葉にとって最初で最後の恋は、実っていたのでしょうか。実っていたのなら、「メイクアガール」はどのようなお話になっていたでしょうか。
今作では、プロローグとエピローグを除いて、稲葉は終始初の目を通した稲葉として描かれていたので、水溜稲葉の抱える孤独感や彼女を蝕む病について、彼女の視点でもう少し深堀りしてほしかったと感じてしまいました。とはいえ、彼女の狂気というか異質さを味わうには、これが最適解なのかもしれません。作中で語られる「ソルトが如何にして制作されたのか」や「明と0号の誕生秘話」などの要素から、この物語の世界観が前作と地続きであることを強く感じました。価値観も悩みも異なる登場人物たちが紆余曲折を経てひとつの目標を目指して奮闘していく青春ものとして、楽しんで読むことができました!
P.S.
超個人的には、湖上教授の質疑応答は最初から最後まで読みたかったです。動画データへのラベル付け方法とか、ソルトに搭載されている画像認識モデルの構成とかいろいろ知りたいです。