感想というより、感じたことを書き並べただけの散文です。
※このページの感想は、「乱れからくり」を読んだ筆者個人の感想であり、作品の絶対的な良し悪しを決定するものではありません。
目次
◆ あらすじ
物語は、プロのボクサーになる夢を捨てた青年・勝敏夫が、求人を募集していた調査会社に面接へ向かう場面から始まる。社長の女丈夫・宇内舞子は敏夫をその日のうちに採用、宇内経済研究会はふたり体制の小さな興振所となった。ふたりは早速、玩具会社部長・馬割朋浩からの依頼に取り掛かった。依頼内容は朋浩の妻。真棹の尾行であった。曲折を経て、ふたりは朋浩と真棹が乗る車を尾行することになった。しかし、その道中で朋浩が乗る車に隕石が直撃。これが原因で朋浩は命を落とす。さらにその翌日、朋浩の息子・透一が睡眠薬を飲み死亡。この後も次々と、馬割家の人間が不可解な死をとげる。舞子と敏夫は、ねじ屋敷と呼ばれる馬割家の家屋やその庭に造られた迷路の謎、さらには馬割家の歴史に肉薄していく。
WARNING読書感想文の性質上、以降の感想の随所にネタバレを含みます。
◆ 感想
依頼主が隕石の直撃を受けて亡くなってしまうなんて……。導入が衝撃的すぎて、読み進める手が止まりませんでした。馬割家の人間計四人の殺害にはそれぞれ別のからくりが用いられていて、最後まで飽きずに読めます。
作中に玩具やからくりに詳しい人が何人も登場して、その人々の発言が伏線として巧く利用されているのですが、口から溢れ出すようにとめどなく続く玩具やからくりの説明の箇所だけは、どうにも物語の進行上仕方なく話しているような、儀礼的な会話に思えてしまって、読んでいて少しつらかったです(これは完全に僕の問題です)。自分の得意分野について、一聞かれたら百答えてくれるような人物がひとりいるのはいいのですが、複数いるとまたあれが続くのか……と億劫になってしまいます(これも完全に僕の問題です )。初版が三十年以上前なので、ジェネレーションギャップなのかもしれません。これも完全な小言ですが、もしかしてこれにもトリックが……?――と期待していた隕石が単なる偶然で片付けられてしまったのはとても残念でした。
とは言っても、僕が引っ掛かったのはその部分くらいで、そこで感じた残念さを差し引いてもなお、この作品は「面白かった!!」です。馬割家の人間が不可解な死を遂げるたびに容疑者の候補は絞られていき、終盤には、敏夫は犯人はこの人以外にあり得ないと断定します。若干の不整合を感じながらも、僕もアリバイ的にも動機的にもその人くらいしかありえないと高をくくっていました。しかし最後の最後で、真の犯人が明らかになるのです。紙面に、予想だにしていなかった人物の名が突如として現れました。敏夫の当てが外れていたのは嬉しいことだけど、それは果たしてあり得るのか――と首をひねりさえしました。しかし舞子による解説を読み進めていくうちに、この犯人だからこその動機やトリックがふんだんに用いられていて、納得させられてしまいます。
隕石、からくり、一族連続殺人、迷路。一読者がこんなことを言うのはおこがましいことだとは百も承知ですが、それひとつでさえキャッチ―な題材を盛り込んで、この作品はとてもうまくまとめられていたなと思います。