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【読書感想文】探偵気取りと不機嫌な青春

感想というより、感じたことを書き並べただけの散文です。
※このページの感想は、「探偵気取りと不機嫌な青春」を読んだ筆者個人の感想であり、作品の絶対的な良し悪しを決定するものではありません。

目次#

  1. あらすじ
  2. 感想

◆ あらすじ#

 過去のとある事件をきっかけに推理をやめた高校生の主人公が、同学級の少女のために推理をしながらトラウマと向き合っていくミステリチックな青春モノ。
 朝河は、中学校時代のある事件をきっかけとして推理を封印していた。当時、様々な事件や謎に進んで首を突っ込んで推理を披露して犯人たちを追い詰めていた彼は、少なくない人から逆恨みを買っており、その結果として、妹が階段から突き落とされてしまったのだった。高校生になった朝河はある日、学級委員の山藤から相談を受ける。曰く、同学級の青山が万引きを働く動画が撮影されているが、彼女はそのようなことをする人ではない、と。常に無口で、周囲を嘲弄しているようにさえ思える態度を取っていた青山だが、過去に山藤を万引きの冤罪から救ったのだと、彼女は語る。朝河は重い腰を上げ、青山を救うべく推理を始める。

WARNING

読書感想文の性質上、以降の感想の随所にネタバレを含みます。

◆ 感想#

 青春ミステリというよりかは、ミステリ風味の青春劇といった印象を受けました。謎解き・推理要素を薄めて、僕が思う青春ミステリの好きな部分を濃くした感じでした。著者の方が書きたかったのはきっと、斬新奇抜なものすごいトリックでも裏切りと驚きに満ちた推理でもなくて、小さな謎とその解決を経て揺れ動く少年少女の心の内だったのではないかなと感じました。それと、クール系だけどデレると重めのかわいいヒロイン。また、この作品からはK鳩君とO佐内さんが活躍する某青春ミステリシリーズイズムを感じるという感想をちらりと目にしたのですが、僕はあまり感じませんでした。両作品の主人公たちは、推理(知恵働き)をやめた――という点は共通していますが、目前に新たな謎が降ってきたときの反応は異なっているように思います。
 この作品では、波打ち際に建てられた砂城のように不安定な少年少女の内面が、巧みに表現されていた気がします。特に主人公の朝河の独白には、そうだよねと思わず頷いてしまいます。またそれと同じくらい、ヒロインのキャラがよかったです。初めはぶっきらぼうだった青山が、徐々に朝河に心を開いて重くなって行く過程もまた、丁寧に描写されていました。ふたりが関係を深めていく過程が、とても微笑ましかったです。ただ、推理小説を期待して読んでしまったので、 推理部分の粗さはどうしても気になってしまいました。作中で推理とされているものの一部は「推理」というより「観察」という印象を受けてしまいました。もう少し納得感のある種明かしがあれば、それぞれの謎に関わっていたキャラクターの心情にもより強く共感できたような気がしてしまって残念でした。
 最後に、これは完全に僕の問題ですが、文章の流れや単語の選び方がいまいち僕の感性に合わなかったような気がします。中盤辺りからはあまり違和感なく読み進められるようになったのですが、序盤は物語に入り込むまでになかなか時間がかかりました。また、日曜日、青山に呼び出されて夜に外出するシーンについて。挿絵の朝河が高校の制服を着ていたのは意図的なものなのでしょうか。そこだけはどうしても気になってしまいました。とはいえ、最後の展開には思わずにんまりしてしまいました。